2024年7月18日、名古屋地方裁判所で就労継続支援B型の工賃をめぐる裁判の判決が下りました。同裁判は工賃の取扱いだけではなく、利用者における「労働者性」の判断についても影響する内容です。
そこで今回は就労継続支援B型の工賃をめぐる裁判について、その概要や判決内容のほか、労働者性に関する考え方を紹介します。
就労継続支援B型の工賃をめぐる裁判の概要
就労継続支援B型の工賃をめぐる裁判の概要は、以下のとおりです。
経緯
同裁判の発端は、愛知県名古屋市に所在がある就労継続支援B型事業所が「工賃の消費税について控除されるべき」と訴えを起こしたところにあります。同事業所は2017年までの4年間に納めた消費税のうち、約2,500万円の返還を国に求めました。
しかし、「就労継続支援B型での作業は労働にあたらない」として、国は返還を認めませんでした。同事業所は「作業は労働で、工賃は労働の対価」という主張のもと、2022年7月に国へ提訴したという流れになります。
一方、国側の主張は「利用者が作業に従事する義務はなく、時間や量も自由であるために、あくまでも福祉サービスの一環として行うもの」として、作業は労働ではないと主張しています。
消費税の扱い
消費税法において、労働の対価として相手に支払ったお金にかかる消費税は控除の対象です。消費税が控除されないと取引ごとに加算され、最終的に商品やサービスの価格が上がり、消費者の金銭的負担が大きくなります。
その点において、国は「工賃は法人内部で分配されており、外部取引で消費税が複数回加算されることを防ぐという税控除の趣旨にも沿わない」とも主張しています。
事業所側は「消費税の返還が認められれば、工賃の増額に充てたい」と考えていたなか、2024年7月18日にとうとう判決が下ることとなりました。
就労継続支援B型の工賃をめぐる裁判の判決
名古屋裁判所の判決は、事業所側の訴えを退ける結果となりました。「利用者は訓練として生産活動に従事しており、工賃は福祉サービスの一環として受け取っている」と判断されたためです。
同事業所は「訓練や福祉という面だけではなく、働く場を作りたいという思いでもやっているため、この判決は許しがたい」として控訴する予定とのことです。
就労継続支援B型における「労働者性」
就労継続支援B型は雇用契約を結ぶ就労継続支援A型と異なり、あくまでも「訓練生」であり、「労働者」ではないとされています。そのため、労働基準法や労災も適用されません。
しかし、就労継続支援B型の作業は多岐にわたり、それらが社会生活の一部を担っているのも事実です。今回の判決で「利用者たちは働いているとは言えない」と判断されたのは、社会的な視点から是としてよいか疑問が残るとする専門家もいます。
今回の裁判で焦点となった消費税に限らず、就労継続支援B型における労働者性は今後も慎重に協議を重ねていく必要があるでしょう。
まとめ
就労継続支援B型における労働者性は、成果を求める報酬改定にともなって徐々に実情と合わなくなってきているといえます。工賃や経営でお悩みの方は、就労継続支援B型に強い「障がい福祉専門の税理士事務所」へ早めに相談しましょう。
参考文献