居宅介護事業の会計処理のポイント
障がい福祉サービスは、よく、社会福祉法人の会計基準で処理しなければならない、といった記事を目にすることが多いですが、実はこれは誤りです。
障がい福祉サービスは、社会福祉法人・NPO法人・一般社団法人・株式会社・合同会社と、様々な法人格で運営されますが、基本的には、これらの法人格で適用される会計基準で処理すればOKです。また、福祉会計で赤字になってはいけない、逆に、黒字を出してはいけない、といったことを言われる方もいらっしゃいますが、これもまた誤りです。
もっとも、黒字にしないと、事業所の持続可能性が損なわれてしまいますので、大いに儲けて下さい。
ただし、障がい福祉サービスを会計処理するにあたって、注意しないといけないことが3つあります。
1.サービス区分ごとに会計単位を分けること
居宅介護事業の場合は、その他の指定事業ごとに経理を区分するとともに、指定訪問介護の事業の会計とその他の事業の会計を区分する必要があります。
2.共通経費は按分すること
サービス区分間をまたがる経費、例えば、税理士報酬とかもそうですね。これらについては、合理的な方法で按分した金額を、各サービス区分に按分して配賦しましょう。もちろん、一般事業も併設している場合は、各事業ごとにもキチンと共通経費を按分する必要があります。なお、合理的な方法とは、家賃で言うと使用面積割合、人件費で言えば人員配置割合といったイメージです。弊社では、シンプルに収入割合を用いることが多いです。
3.特別会計はキチンと分ける
給付費収入と人件費など、福祉サービスのお金の流れを管理する「本会計」とは別に、「特別会計」という考え方があります。具体的には、①利用者さんのお小遣いや生活費を管理する会計、②生活介護や就労継続支援などで生産活動を行っている場合の「就労会計」などがこれに該当します。
これらを本会計に入れる方がいらっしゃいますが、これもまた誤りです。これらは、本会計とは別に管理して下さい。具体的には、①利用者さんの生活費などは、エクセルなどで事業所で独自に管理して下さい。これは税務署や金融機関に提出する決算書には掲載されない会計になります。
一方で、②就労会計については、決算書に掲載される会計ではありますが、本会計とは別で管理する必要があります。就労会計は、生産活動における利用者さんの工賃管理を目的としており、「生産活動における売上-生産活動における経費=全額利用者さんへの工賃」としなければならないので注意が必要です。実地指導でも必ず確認される項目となります。
そのほかの注意点は以下のとおりです。
請求誤りに注意
居宅介護事業の収益の9割は、国保連合会へ請求します。このとき、請求誤りに要注意。誤りがあると翌月以降に過誤処理する必要があり、その分収益の入金が遅れます。安定した資金繰りのためにも、ミスなく会計処理・請求するようにしましょう。
具体的な請求誤りの例は、以下のとおりです。
受給者台帳の決定支給量を超過した場合
契約支給量や回数、1回当たりの最大提供量などが支給決定量を超過する誤りが多いです。この場合、契約サービス欄の修正や担当ケースワーカーへの連絡、翌月以降に支給量の範囲内で再請求するなどの対応が必要。
請求時の記入誤りが発覚した場合
サービス提供量が契約支給量を超過している場合は、誤りがないか確認し、次月以降契約サービス欄の契約支給量を正しく入力する必要があります。
また、国保連合会の点検でエラーが出た場合は、国保連合会に実績記録票が提出されていない恐れあり、返戻や過誤調整が生じることが多いです。
利用者負担上限月額欄の金額が異なる場合
明細書と受給者証との間で利用者負担上限月額欄の金額が異なる場合は、正しい利用者負担上限月額を入力することはもちろん、超過して支払いを受けている場合は翌月以降、返戻や過誤調整などの対応が必要です。
過誤処理は毎月10日まで
請求誤りなどが発覚した場合は過誤申立書を障がい者給付係へ提出し、翌月に国保連へ再請求が可能となります。ただし、申立書の内容に不備があったり、10日を過ぎた場合は翌々月の請求となるため、居宅介護事業の経理担当者はできるだけ正確かつ迅速な対応が必要です。
まとめ
居宅介護事業の経理担当者は、障がい福祉サービス特有の会計基準への理解や、国保連合会への正確な請求手続きなど、プレッシャーのかかる仕事が多いです。そのため、居宅介護事業に強い「障がい福祉専門の税理士事務所」へ協力をあおぎ、業務の負担軽減と効率アップを図ることをおすすめします。
参考文献